参院選の結果は何を物語るのか
岡田一郎(政治学者)
東京都議会議員選挙が統一自治体選挙の年とは異なる年に実施されるようになったのは、1965年に発覚した議長職をめぐる買収事件を機に、地方公共団体議会解散特例法が制定され、地方議会の自主解散が認められるようになってからである。それ以来、東京都議会議員選挙は12年に1度、巳年の時に参議院議員選挙と同じ年に実施されることになり、都議会議員選挙は参議院議員選挙の前哨戦と位置づけられるようになった。
それでは今回の都議選からはどのような傾向が見えてくるだろうか。今回の都議選では自民党は追加公認3人を加えても史上最低の21議席しか獲得できず、1993年の都議選以来8回連続で全員当選を果たしてきた公明党は3人候補者を落とし、全員当選はならなかった。野党第1党だった日本共産党(共産党)も5議席減の14議席に終わり、野党第1党の地位を立憲民主党に明け渡すこととなった。一方、都議会に議席を有していなかった国民民主党が9議席、参政党が3議席を新たに獲得した。この選挙結果から、私は伝統的な組織政党の衰退と新興勢力の台頭という流れを感じた。
今回の選挙で、なぜ新興勢力が台頭したのか
このような伝統政党の衰退と新興勢力(特にポピュリズム政党)の台頭という傾向は世界的な傾向である。例えば、2023年のオランダの総選挙では20世紀に首相の大半を輩出したキリスト教民主主義政党・キリスト教民主アピールがわずか得票率3パーセントに沈み、老舗の社会民主主義政党・労働党は1989年創設の左派政党・グリーンレフトの軍門に下る形で統一名簿を形成するに至った。この選挙では、反EU・反イスラムを掲げ、ポピュリズム政党として世界的に警戒されてきた自由党が第一党となった。2025年のイギリスの地方選挙では保守党が676議席減・労働党が186議席減という歴史的大敗を喫したのに対して、ポピュリズム政党のリフォームUKが677議席増という大勝をおさめた。
このような劇的な形ではないにしても、今回の都議選はオランダやイギリスなどに見られる政治的なうねりが日本にも及んでいることを予感させるものであった。はたして、実際の参議院議員選挙では、自民党は改選議席52であったにもかかわらず39議席しか獲得できず、公明党も改選議席14に対して獲得議席は8に終わり、与党2党合わせても参議院の過半数を割り込み、1955年の自民党結党以来、初めて政権与党が衆参両院で過半数を割るという事態となった。共産党も改選議席7に対して4議席と振るわず、本来ならば政権批判票を吸収すべき野党第一党である立憲民主党も改選議席・獲得議席共に22と、横ばいに終わった。代わって、議席数を大幅に伸ばしたのが、東京都議選同様、国民民主党と参政党である。国民民主党は改選議席4に対して獲得議席17、参政党は改選議席1に対して14議席と躍進した。とりわけ「日本人ファースト」をスローガンに掲げる参政党の躍進は、ヨーロッパのポピュリズム政党の移民排斥を連想させ、日本にもポピュリズムの波が及んできたことを認識させる結果となった。
だが、「日本人にも外国人排斥の風潮が高まった」と慨嘆する前に、日本の既成政党に考えてもらいたいのは、今回の選挙でなぜ新興勢力が台頭したかということである。要因の一つに日本における排外主義の台頭が挙げられるかもしれないが、それだけであろうか。私は30年におよぶ日本経済の停滞に無為無策であった与野党に対する国民の怒りの現れのように思えてならない。失われた30年のほとんどを与党であった自民党・公明党の責任が重大であったのは言うまでもないが、野党陣営も「自民党の失点が重なれば、自分たちに票が入る」と安易に考え、与党に代わる政権の受け皿づくりや政策の立案を怠ってきたのではないか。今回の選挙結果はそのような与野党に猛省を促す内容であったと思わざるを得ない(国民民主党が旧民主党の流れをくむ政党でありながら、横ばいに終わった立憲民主党と異なり、大きく躍進できた=既成政党ではなく、新興勢力として有権者になぜアピールすることが出来たのか、については詳細な分析が必要であろう)。
ネット選挙も新たな時代に
なお、今回の選挙は以前、本稿でネット選挙の先駆者として紹介した、自民党の山田太郎が改選を迎える選挙であった。山田は、表現の自由のほかに花粉症対策や国会図書館資料のデジタル化とそれによって障害者に仕事を与えることなどを訴えて、自民党の比例候補の中では得票数が前回同様2位につける高得票を得て再選された。しかし、6年前の得票が約54万票であったのに対して、今回の得票は約38万票にとどまった。その原因として、山田が2023年に妻以外の女性との不適切な関係を報じられるというスキャンダルを抱えており、それによって離れた支持者がいたことや、自民党自体が今回の選挙では不人気で「山田であっても自民党には入れたくない」と考えた有権者が少なからずいたことが考えられる。だが、最大の理由は山田のネット戦術自体が古くなってしまったことではないだろうか。山田の戦術は毎週1回、動画サイト(かつてはニコニコ動画、現在はyoutube)で国政報告をし、コアな支持者がそれをもとにX(旧twitter)で山田の功績を拡散し、それを見た人々に支持を広げるというものであった。しかし、今回の選挙では政治家の宣伝媒体はXからtiktokやショート動画に移行したと言われ、特に参政党はそれらの活用が上手であったとされている。ネット選挙もまた新たな時代に突入したのである。
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