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有名声優と韓国系極右YouTuber、情動、重ねて
瀧 大知(外国人人権法連絡会事務局次長)

【まもなく発売】季刊『社会運動』2025年10月発行【460号】特集:もっと社会的連帯経済

「林原めぐみ」は、アニメ「名探偵コナン」や「新世紀エヴァンゲリオン」でメインキャラクターの声を演じてきた人気声優である。2025年6月8日、林原は自身のブログに「興味がない、わからない、知らない」と題した文を書いた(※同日閲覧-現在は一部の表現を修正)。これは林原が感じる「日本の危機」を綴ったものであった。同文章は即座に拡散、炎上した。

本コラムでは同事例を取り上げ、とりわけ投稿に至る動機と経路に注目する。それはこの事象がグローバルに展開するメディア状況と排外主義を捉える上で、示唆的な論点を提示しているからである。

ナショナルな危機感の行方


 まず林原の危機感だが、引用すると次のナショナルな一体性=「日本(人)」の危殆を憂慮するものであった。「日本の日本らしさが マナーも、態度も、技術も食糧も消えてしまう もしかしたら アニメも(>人<;)」。

内集団的な意識が醸成されると、必然的に対の集団が設定される。当該ブログの外集団は「外国人」であり、その中に「一部のマナーの無い民泊の人」や「『譲る』を知らない海外観光客」「京都の竹削ってしまったりする人」がいるとし、「規制を持たないと、作らないとやばい」「日本ザリガニがあっという間に外来種に喰われちゃったみたいになってしまう」と記した。加えて、「人任せじゃなく」「ちゃんと選挙に行かなくちゃいけない」と呼びかけた。

 この投稿は「排外主義である」として多くの批判を受けた。合わせて素朴な排外感情(不安感)をどうケアするのか、という議論もなされた(注1)。

影響を与えた人びと―韓国YouTuber


 確かに件の記述は排外主義と捉えられる。実質的に「外国人=外来種」とする比喩は、国内外問わず差別主義者が好んで使う表現である。仮に当人に意図がなくとも差別の煽動になり得る(※後に「一部過激な表現とし削除」された)。

 もちろん、こうした排外性は肝心な争点ではあるが、ここで検討したいのは林原の動機付けである。内発的な感情に限らず、これを表出させた、影響を与えた人びとがいる。それが韓国系のYouTuberであった。「以前から 幸せなネタや海外旅行や美味しいご飯や あれこれYouTubeを見ていました」「デボちゃん キバルン ジェホ君を見つけました」。

 具体名が挙がった3人は、日本(人)向けに韓国の最新トレンド等の情報を発信してきたインフルエンサーである。数十万単位のフォロワーを持ち、キバルンは日本のTVドラマにも出演経験がある。しかし昨今、彼らは別の「活動」を主としている。それが極右-陰謀論的転回である。

 2024年12月3〜4日に当時の尹錫悦大統領が突如「非常戒厳」を宣布、これにより国会で弾劾、職務が停止された。2025年4月4日には憲法裁判所が弾劾を支持し、尹は罷免された。その後、6月3日に大統領選挙を実施、「共に民主党」の李在明が当選した。

 世界共通の課題だが、政治的な話題においてSNSではデマや陰謀論が現れる。罷免→大統領選でも韓国の極右YouTuberが「中国や北朝鮮のような共産主義の国、反日国家になる」「韓国は中国に侵略される」との主張(注2)を流布した。選挙後も「不正な選挙であった」との虚偽情報が大量に出回った(注3)。

 先の3人も同様である。例えば罷免決定時、キバルンのYouTube動画「守ることができず、申し訳ございません。」(チャンネル名「きばるん 키바룬」2025年4月5日)には「韓国は、今 中国のスパイ 北朝鮮のスパイに国が侵略されました」とデボちゃんが叫ぶ様子が映し出されている。ジェホも「韓国の大統領選挙で不正選挙が起きている?韓国人が教えます」(「ジェホtv」2025年5月31日)をアップ、選挙で不正行為が行なわれたことを匂わせた。

情動の感染と排外主義のゆるく、簡易な扉


 メディアは情報だけではなく「感情を伝える、より正確に言えば、文字や映像や動画を通して、伝える側の感情や意図や信念も伝達し、それを受けとった側の人々にも情動を触発して、共感や共振を引き起こす」。これは「情動感染」といわれる(注4)。

キバルンらの動画には「反日」政権化する危惧を日本(人)に伝え、それを阻止すべくメディアが報じない「巨大な悪」(=陰謀)と闘う―「日本(人)のために」との添加物も加えた―「物語」をときに冷静に、あるいは必死な顔つきで息を切らしながら走り、怒り、涙を流す様が収められている。林原が「お隣の国で」「必死に配信している子達」に感化されてナショナルな意識を高揚させるのは、まさに情動の感染であろう。

 また、林原のブログを読むに、彼らは好き=「推し」的な対象であったことが窺える、そのためより一層、同期しやすい状況にあったと捉えられる。そして、本稿がこの事例に着目した理由はここにある。

 林原が排外主義に近づいたルートは、いわゆるネット右翼(=日本国内の差別的な情報との接触)ではない。「楽しい旅行もさせてもらった」「おとなり韓国での事」とあるように「嫌韓」的な形でもない。むしろ今回の例は他者の拒絶ではなく、他者の受容、簡易にいえば他者(国)への「好奇心」により誘因された部分もあるのではないか。

 さらに、動画視聴における「形式」に目を向けると、配信者/視聴者の関係性は持続していることが分かる。彼らの基本スタイルは「日本人が知らない韓国事情の伝達者」である。つまり、動画の視聴行為は教える側(配信者)/教えられる側(視聴者)というパターナルな関係が構築され、成立する。視聴者は自分たちの「知らない真実」を求める。この形式は極右-陰謀論的転回後も同じである。こうした啓蒙的な在り様は、感染を容易にする関係性ともいえる。嫌悪ではなく「好き」、無理解ではなく「理解したい」との好奇心がネガな方向に向けられる。まして、「オモシロ多文化紹介YouTuber」を警戒することは困難を極める。単純な「メディアリテラシー」では片付けられない。

 3人の韓国系YouTuberは元々極右的な配信者ではなかった(注5)。おそらく、林原も最初から政治的な文脈で「発見」したわけではない。このように当該問題は極右-陰謀論/排外主義に連なるふわっとした軽い扉があること、扉の鍵がどこにでも落ちていることを意味しているのではないか。

(注1)朝日新聞「(藤田直哉のネット方面見聞録)『素朴な不安』、まず受け止め一緒に解決へ」(2025年6月21日)

(注2)デイリー新潮「デタラメ情報を拡散、『陰謀論』を繰り返す韓国の極右系ユーチューバーのコメント欄が日本語で埋め尽くされた」(2025年6月19日)

(注3)(注3)TBS NEWS DIG「『遠からず、韓国は中国の属国になる』極右YouTuberがネットで拡散“不正選挙”陰謀論に翻弄された韓国大統領選、混乱の裏側【報道特集】」(2025年6月7日)

(注4)伊藤守「メディア生態系が触発する〈情動〉現象」調査情報デジタル(2023年2月6日)

(注5)転回要因として彼らの情報は日本の右派層が好む内容であり、それがビジネスに繋がっているという指摘がある。注2の記事を参照。

(全文)

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