社会連帯経済 新しい韓国のための希望の種
崔珉竟(京畿道議会政策支援官)
新しい政府のスタートとともに、社会連帯経済に対する期待と関心がかつてないほど高まっている。李在明大統領と国政企画委員会(注)のイ・ハンジュ委員長は、社会連帯経済が持つ価値と潜在力を誰よりも深く理解している。李在明大統領は、城南市長および京畿道知事時代から社会的経済の重要性を強調し、関連政策を積極的に推進してきた。協同組合や社会的企業など、多様な社会的経済の主体と協力して地域社会の問題を解決し、持続可能な雇用を創出し、その成功の可能性を証明してきた。
イ・ハンジュ国政企画委員会委員長も、城南市社会的経済支援センター長や京畿研究院長として、社会連帯経済エコシステムの構築に大きく貢献した。彼は単に政策を立案するだけでなく、現場の声に耳を傾け、社会連帯経済の主体の自生力を高めることに尽力した。
彼らの経験と哲学は、社会連帯経済が過去3年間の停滞を克服し、新たな飛躍の機会を迎えるための強力な推進力となっている。
「国際協同組合年」とシンポジウムからみる社会連帯経済のビジョン
2025年は、国連が指定した二度目の「国際協同組合年」という特別な意味を持つ。これは、協同組合の価値と役割が全世界的に再び注目される重要な機会だ。この意義深い年に合わせて、韓国では7月3日、「多重危機の時代を乗り越える強力な『協同組合』を築くために!」というテーマで、シンポジウムが開催された。
このシンポジウムで、国政企画委員会のイ・ハンジュ委員長は「協同組合の価値は、今日私たちが議論している基本社会のビジョンとも深く関連している」と強調した。彼は、憲法10条に明記された人権と幸福追求権に基づき、すべての国民の基本的な生活を保障する「基本社会」が、協同組合が追求する民主的参加、公正な分配、相互連帯の価値と一致すると説明した。さらに、協同組合が持続可能な社会を築き、基本社会のビジョンを実現する上で中核的な役割を果たせるよう、政策的・制度的支援を惜しまないと約束した。
カンファレンスは「韓国社会の主要課題と協同組合の挑戦、危機の時代を越えて未来へ」というテーマのもと、①雇用、②医療・ケア、③コミュニティ、④エコシステム・協力と連帯、⑤エコシステム・法律、⑥個別法など、多様なテーマについて議論が行われた。
基調講演者として登壇した韓神大学のチャン・ジョンイク教授(韓国協同組合学会長)は、「協同組合基本法の制定以降の韓国協同組合の成果と課題」について発表した。彼は、2023年の企画財政部の実態調査結果を引用し、協同組合の5年生存率が株式会社に比べて高く、60万人の組合員が5700億ウォンを出資、1万の協同組合の年間 売上高が4兆ウォンなど、驚くべき成長と生存力を提示した。特に、医療福祉・ケアなどの社会的協同組合の発展について言及し、医療生協の拡大の必要性を強調した。一方で、プラットフォーム協同組合や住宅協同組合などは依然として零細性を脱しておらず、規模拡大を求めた。彼はまた、一部の協同組合が営利法人の考え方に倣っていることを批判し、イタリアやドイツ、アメリカのように協同組合のアイデンティティを強化すべきだと力説した。
「良い雇用」をつくる協同組合
「雇用」というテーマに関連し、W企画研究所のパク・ギョンジン代表は、労働中心協同組合(労働者協同組合、社会的協同組合、フリーランス協同組合など)を中心に実施した研究結果を通して、「良い雇用」の基準と、韓国国内の協同組合の現状を明らかにした。良い雇用としての労働中心協同組合の類型別の意義として、労働者協同組合は労働の社会的関係を改善する効果、社会的協同組合は社会的弱者の雇用、フリーランス協同組合は雇用の安定性を改善することなどを挙げた。協同組合を「良い雇用」として、公的指標を含む様々な指標を活用して生産的雇用、公正な所得、労働条件、社会的保護、表現の自由と参加の5つの要素で検討した結果、「売上、雇用人数、所得の面では相対的に良い雇用だと断定するのは難しいが、労働時間、社会保険、社会的弱者の雇用維持、表現の自由と参加の面で、労働者組合員自らが雇用を創出している点を良い雇用と見なすことができる」と述べた。
さらに、政策提言として、労働形態に応じた協同組合分類体系の整備の必要性、労働形態に応じた支援制度の導入、労働中心協同組合の雇用効果の積極的な広報とノウハウの拡散などを提示した。
医療社協は地域社会統合ケアの適任者
「医療・ケア」というテーマに関連し、尚志大学協同社会経済研究院のパク・チャンギュ専任研究員は、2026年3月の「ケア統合支援法」施行を控え、地域社会統合ケアがどのように進められているか、今後の課題、必要な政府政策などについて説明。医療福祉社会的協同組合(医療社協)の財務実績を分析した結果、成長性は概ね良好であるものの、個々でみると収益性は二極化している。さらに全体的に財務的安定性は維持されているが、一部の組合は財務的に不安定であると判断した。そして、「販売費と管理費の縮小よりも、売上をいかに増加させるかを検討すべきだ」と付け加えた。
2022年〜24年の3年間で、全34の医療社協のうち、組合員が増加した組合は91・2%、出資金が増加した組合は85・3%、全31の医療社協のうち職員数が増加した組合は74・2%に達した。「特に女性・正規職・社会的弱者の雇用が急速に増加した点を、社会的成果として評価できる」と述べた。「ケアは営利追求の対象ではなく、ケアの市場化は避けるべきだ。ケア費用は最終的に国が責任を負うべきであり、ケア労働は協同組合が担当してこそ福祉経営がうまくいく」とし、「医療福祉社会的協同組合こそ、地域社会統合ケアの適任者だ」と強調した。
政府政策に関連して、社会的成果と財務的成果が連動した医療基盤の好循環経営モデルの拡散、韓国社会的企業振興院を通じた統合ケア人材の育成(ケアマネジャーなど)、組合員出資金拡大のための税額控除など、出資金税制インセンティブの導入などを提言した。
最後に、チャン・ジョンイク教授は「国連は今回の決議案(2025年を国際協同組合年と宣言する内容の決議案)において、協同組合の企業エコシステムを強化し、協同組合が良質な雇用の創出、貧困撲滅と教育、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC(注))、インクルーシブ・ファイナンス、住環境改善を含む社会的弱者の保護に貢献できる、持続可能で成功する事業体となるよう、各国政府の支援が必要である」と強調した。
「基本社会のための社会連帯経済全国会議」と社会連帯経済の未来
政府の政策方向と歩調を合わせ、国会レベルでも連帯と能力を強化するための動きを見せている。その一環として「基本社会のための社会連帯経済全国会議」が8月28日に発足した。この全国会議は、社会的経済、都市再生、地域コミュニティ、協同組合、非営利公益事業体など、社会連帯経済に関連する多様な立法課題をスピーディーに解決することが目標だ。共に民主党のキム・ヒョンベ、ボク・ギワン議員と無所属のチェ・ヒョクジン議員が主導し、共に民主党 全国社会的経済委員会と各常任委員会の国会議員が立法推進団として参加し、社会連帯経済を通じて基本社会を実現しようとする全国のすべての活動家、専門家、民主党員の参加を呼びかけた。
特に、2025年下半期中に社会連帯経済基本法の制定案を発議し、年内の国会通過を目指している。この過程で、関係機関や利害関係者の意見を積極的に聴取し、実効性のある法案を策定する計画だ。
社会連帯経済はもはや、単に福祉や補助金に依存する存在ではなく、韓国が直面する多様な社会問題を解決し、新しい時代を切り開くための核心的な希望の種として、「福祉の補完手段」ではなく、市民が直接基礎生活サービスを生産し分配する新しい社会モデルとして位置づけられているのだ。
李在明政府はこれを公式の国政課題として受け入れ、制度化を本格的に進めようとしており、現場組織との協治基盤も構築された。多重危機の中、協同と連帯は競争よりも強力な生存戦略となっている。
2025年に韓国で始まったこの実験が、日本の市民社会にもインスピレーションを与えることを期待している。
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