新しいリベラルとは何か
岡田一郎(政治学者)
55年体制の時代、日本人の政治的イデオロギーは大きく2つに分けて、保守と革新で分類されてきた。自民党の政治を是とする立場が保守、自民党に対抗する野党(革新政党)を支持する立場が革新とされてきたのである。しかし、55年体制の終焉とともに、革新という言葉は使われなくなり、代わってリベラルという言葉が保守の対抗概念として使われるようになった。
社会学者の橋本努(北海道大学大学院教授)と金澤悠介(立命館大学教授)は、革新勢力の思想からマルクス・レーニン主義を取り除いた政治思想(自民党政治を是とせず、漠然と革新政党を支持していた層の思想)には4つの特徴があるとする。
その1つめの特徴は日米安全保障条約(日米安保条約)に対する反対である。2つめは憲法9条の改正に反対であることである。3つめは天皇制に対する反対である。4つめは従軍慰安婦問題に対して、日本政府に真摯な対応を求めることである。
この4つの特徴を兼ね備えた政治思想を橋本・金澤は旧リベラルと呼ぶ。そして、旧リベラルにはこれら4つの根幹となる思想のほかに、枝葉となる2つの考え方があったという。1つは社会民主主義的な経済政策(社会保障や公共事業の拡大)への支持であり、2つめは伝統的な社会からの解放(ジェンダー問題への取り組み、市民参加の促進、個人権の擁護)であるという。そして4つの根幹となる思想をすべて支持する旧リベラルは今日ではごく少数になってしまったという。
確かに、憲法9条や従軍慰安婦問題は今日でも大きな論争を巻き起こしているが、正面から日米安保条約や天皇制に反対する声は最近ではあまり耳にしなくなった。
日本人の政治思想を6つに分類する
それでは、日本人のほとんどは保守になってしまったのだろうか。橋本と金澤は、2022年7月の参議院議員選挙直後に、当時楽天インサイト株式会社に登録されているモニターの中から、性別、年代、居住地域が日本の縮図となるよう、18~79歳の男女7000人を対象とするウェブ調査をおこなった。この調査の結果、現代の日本人の政治思想は6つに分類されるという。
その中で最大(全体の23パーセント)なのは新しいリベラルである。新しいリベラルに分類される人々は、成長を志向する人たちへの政府の支援を支持するともに、子ども世代や孫世代の活躍のために、政府に対して子育て支援や教育の充実を求めている。日米安保条約の撤廃を支持する者は14パーセントに過ぎず(回答者全体では15パーセントが支持)、65パーセントは慰安婦問題への謝罪は不要と答えている(回答者全体で同様の答えをしたものは同率の65パーセント)。一方で、64パーセントは非核三原則を支持し(回答者全体では55パーセント)、55パーセントは同性婚合法化に賛成している(回答者全体では45パーセント)。すなわち、日米安保条約や従軍慰安婦問題では旧リベラルとは一線を画す一方で、政治的指向としてはリベラルであるといえる。
旧リベラルにある程度親和的なのは、従来型リベラルと名付けられた人々であり、全体の18パーセントを占める。彼らは弱者支援型の福祉政策に賛同し、新しいリベラルに比べて高齢世代への支援を支持する割合が高い。新しいリベラルに比べて旧リベラルの思想に親和的だが、それでも日米安保条約の撤廃を支持するのは2割に過ぎず、従軍慰安婦問題への謝罪を必要と答える人も半数に過ぎない。
新しいリベラルに次いで大きな割合を占めているのが政治的無関心であり、全体の20パーセントを占めている。彼らは名前の通り、政治的問題に無関心であり、基本的な生活保障以外の社会福祉を必要ないと考えている人が多い。また、投票の際に他のグループに比べて、政党のリーダーの能力や魅力を考慮して投票先を選んだと答えた人の割合が、回答者全体の傾向と比べて高い。
新しいリベラル・政治的無関心・従来型リベラルに次いで割合が大きいのが、福祉型保守であり、回答者の16パーセントを占めている。このグループの人たちは経済成長と弱者支援型の福祉政策の両立を望んでいる。政治的には、これまでの自民党の政権運営を支持する人たちであり、日米安保条約の解消や慰安婦問題への謝罪については強く反対する。
福祉型保守に次いで割合が大きいのが成長型中道であり、回答者の13パーセントを占めている。このグループは成長を志向する人々を支援する形での福祉政策を支持しているが、それは将来世代の支援のためではなく、社会投資による経済成長が現役世代や高齢世代の生活を安定させるからである。日米安保条約の解消および慰安婦問題への謝罪については、回答者全体の回答傾向と大きく変わらない。一方で6割が非核三原則を支持し、半数近くが同性婚の合法化を認めている。
政党はどんな人々を標的にするか意識すべき
日本人の政治思想で最も割合が小さいのは市場型保守で、回答者の9パーセントを占める。このグループは、社会福祉政策は不要と考えており、政府は経済成長や防衛に力を入れるべきだと考えている。日米安保条約の解消には反対で、従軍慰安婦問題への謝罪にも強く反対している。同性婚の合法化を支持する者は2割強に過ぎず、半数以上が愛国心教育を必要だと答えており、政治志向はきわめて保守的である。このグループは、ネット上で意見を表明する割合が他のグループより高く、他のグループの活動率が5パーセント程度なのに対し、このグループの活動率は10パーセント弱にのぼる(以上の分析は橋本・金澤『新しいリベラル』ちくま新書、2025年による)。
橋本・金澤の調査がどこまで正確かはわからないが、日本人の政治思想のおおよその傾向はわかるのではないだろうか。例えば、インターネット上では保守的な意見を表明する者が多いが、それは市場型保守がネット上で意見を表明する割合が高いからであり、実際の有権者の中ではその割合は小さい。
私自身、橋本・金澤の分析に違和感を覚える点も多い。例えば、旧リベラルの4つの根幹のうち、天皇制反対や従軍慰安婦問題での日本政府の謝罪は、根幹と言うほど、かつてのリベラルの多数派を占めていたとは考えにくい。むしろ、橋本・金澤が枝葉ととらえた部分が旧リベラルにとって重要ではないかとも思えるのである。
しかし、このような日本人の意識のおおまかな動向を探ることは、日本の政党や政治家に一つの指針をあたえるのではないだろうか。自分たちはどのような人々をターゲットにするべきかと意識するだけでも、政党や政治家の広報活動は今よりずっと有権者に響くものになるのではないだろうか。
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