紛争地域から考える安保法制の問題点(日本国際ボランティアセンター代表理事 谷山博史)
「対テロ戦争」の現場から平和を考える
―安倍政権による国家安全保障戦略(注2)と安保法制の問題点は、様々な観点から繰り返し指摘されています。特に、紛争地で人道支援・平和構築に携わるNGOの視点からお話しください。
まず考えるべきは、アフガニスタン、イラク、シリアの戦争は、いわゆる「対テロ戦争」だということです。国家対国家ではなくて、「テロリスト」と名付けられた非正規のグループを敵に見立てた戦争です。私は、アフガニスタンでの支援活動を経験して、「対テロ戦争」の戦場は住民の居住空間だと強く感じています。住民と武装勢力を瞬時に判別できないので、非常に多くの人が巻き込まれて亡くなっています。
2004年2月、JVCの現地スタッフの母親が、タクシーで移動している時に米軍によって銃撃されました。米軍は武装勢力が乗っているとしてタクシーを撃ったのですが、女性だったとわかり、ヘリコプターで彼女を連れ去ったのです。この情報に村人はパニックになりました。私は、国連や米軍に掛け合って情報を求めて、翌日ようやく女性が米軍病院に収容されたことが明らかになりました。
このような誤射や誤爆はたくさん起きているので、私は他のNGOと一緒に、米軍に対して事件の調査と、謝罪と補償を求めました。しかしその回答は、「このようなことは日常茶飯事なので、調査はできない」というものでした。その言葉に女性の家族は「テロでもなんでもやってやる」と憤りました。犠牲者の家族はどこにも訴えること ができず、武装勢力に加担するしかないという気持ちになることもあります。この殺戮の繰り返しが、武装勢力をより強めてしまうのです。
今回の国家安全保障戦略と安保法制では、自衛隊による軍事面での「国際貢献」が際立っています。私は支援の現場で理不尽な殺戮の連鎖を見てきたからこそ、軍事介入では武力攻撃を止められず、現地の人びとの幸福に寄与しないだろうと思います。
―武装勢力も外国軍も危険な存在ですが、どのような安全策が現実的なのでしょうか。
JVCが医療支援をしている地域は武装勢力がいないところですが、ある時、米軍が入ってきて爆撃訓練を始めました。外国軍は武力攻撃の対象になりますし、もし武装勢力に米軍と一体化しているNGOだとみなされたら、私たちも危なくなりますから、米軍に去ってもらわなければなりません。そのうち米軍のロケットが診療所の近145くに落ちたので、これはもう黙っていられないと私たちは米軍に抗議しました。当初、米軍は関与を否定していましたが、最終的に米軍が落としたロケットであることを認めました。そして、その地域での米軍の活動を牽制できたのです。
このように、米軍が村に被害を与えた時にすぐに抗議したり、JVCは米軍の仲間ではないと村人に分かってもらうことが、私たちにとっての安全対策です。
つまり、外国軍でも、武装勢力でも武力解決を任務とする軍事組織を地域に寄せ付けないことが平和の維持につながるのです。
(P.142~P.145 記事から抜粋)