書評①『サステナビリティの隘路』 古沢広祐
「持続可能な消費」の実現はなぜ難しいのか
國學院大學客員教授 古沢広祐
エコロジー運動、社会的経済・協同組合論などを研究。市民セクター政策機構理事
地球環境の危機的状況を背景に「サステナビリティ(持続可能性)」という言葉は思いのほか普及している。関連して国連のSDGs(持続可能な開発目標)も広く知られるようになり、とくに目標12(つくる責任、つかう責任)で、消費者の意識や取り組みの重要性が指摘されるようになった。本書は、持続可能な社会に繋がる消費者行動について、理想と現実とのギャップの実体、そのギャップを克服する手立てについて、詳細なアンケート調査やインタビュー調査をもとに著者の分析と提言が述べられている。
「サステナビリティ迷子」というキーワードを軸に、自身の体験も交えつつ迷子からの脱却のあり方をさまざまな諸事例を通して提示しようと試みた好書である。食の安全や持続可能性がどの程度意識されて、実際の購買行動にどの程度反映されているのか、詳細な実態分析は参考になる。西欧諸国と比較して、日本の消費者は意識しつつも実際に環境や社会に配慮する行動へと繋がりにくい傾向は以前から指摘されていた。その要因を探ると、経済的理由や教育面とともに流通・販売、購買し易さや表示など、様々な理由が推察される。
他方、持続可能性を意識した積極的な消費の実践面で注目される事例として、第5章「生活クラブにおける〈実践〉」が取り上げられて分析されていて興味深い。生活クラブ滋賀におけるインタビュー調査と参与観察をもとにして、受動的消費者から能動的消費者へ変わる契機や経路について詳しく考察されている。詳細は本書にゆずるが、「無関心な消費者」や「意識はあるが行動できない消費者」(サステナビリティ迷子)が多い中で、持続可能な消費に至る場合においても「無意識的に選択」や「意思と行動が伴う選択」など、さまざまな姿として観察される。そして能動的消費者の形成に関しては、予約共同購入など各種の参加体験的な経路とともに、そこに居場所やコミュニケーション、ネットワーク的繋がりなどの付随的な隠れた要因がかなり相互作用しているという。
一人ひとりとしては「弱い個人」が、相互作用を生む学習、味わいの感動や生産者とのコミュニケーションといった実体験を通じて、そして委員会活動など社会的実践に関与していくことで、社会運動に積極的に関わっていく「強い個人」へと移行し変身していくような経路や仕組みの重要性を指摘している。
消費者行動がサステナビリティへ導かれる道すじ
本書は博士論文をもとにして書籍にまとめた関係もあり、調査の詳細説明や理論的な枠組みとして合理的選択理論と社会的実践理論の説明、両理論の相互作用と発展的な展開の重要性が論じられており、一般読者には読み取りにくいところもある。消費者行動がサステナビリティへ導かれる道すじ、受動性から能動性を獲得していくために、本書はいろいろと示唆に富む内容が提示されている。とくに、隘路からの脱却はどのように可能なのかについて、ご関心ある方にはぜひ一読をお薦めしたい。最後に目次を示しておこう。
序章 「持続可能な消費」の実現はなぜ難しいのか/第1章 社会的実践理論─合理的な選択ができない消費へのアプローチ/第2章 食の消費をとらえ直す─〈行為〉から〈実践〉へ/コラムA あなたの「持続可能性」と私の「持続可能性」/第3章 有機農産物の流通経路の多様化─産消提携から市場へ/第4章 消費者の食への関心─食の安全と持続可能性/コラムB 私もサステナビリティ迷子/第5章 生活クラブにおける〈実践〉─「持続可能な消費」を実現するしくみ/コラムC 生活クラブ滋賀の「居場所」/第6章 持続可能な食の消費の実現に向けたアプローチの検討/終章 サステナビリティの隘路を切りひらく
(全文)








