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■2025年3月29日『韓国協同組合運動100年史』日本語版出版記念「日韓協同組合フォーラム」開催報告 (2025国際協同組合年後援事業)
2025年3月29日(土)、市民セクター政策機構は、関西大学東京センター会議室にて、標記フォーラムを開催しました。
当日は、会場参加・オンライン参加合わせて107人が参加しました。
冒頭、当機構理事長の柳下信宏が開催挨拶として、「日本語訳電子書籍として出版した『韓国協同組合運動100年史』には、韓国の協同組合運動の様子がいきいきと描かれており、その歴史や実践を知ることは日本の協同組合運動の研究者や実践者にとって貴重な機会です。この場を日韓協同組合の交流の発展の機会としたいと考えます」と述べました。
続いて、共催団体である日本協同組合学会 学会長の杉本貴志先生(関西大学教授)からご挨拶をいただきました。「韓国協同組合運動史の研究によって、帝国主義・植民地支配の時代に、日本の支配に抗して協同組合運動が立ち上がった史実が発掘されていますが、そうした暗い二国間の歴史を経験してきたとはいえ、両国の協同組合関係者が対立したことは長い歴史の中でもありませんでした。両国の協同組合関係者は常に友好と学び合いの精神を発揮してきたのです。ここに協同組合運動の本質があらわれていると考えます」
その後、下記の方々からお話をいただきました。
- 「社会運動史としての韓国協同組合運動100年――国家の協同組合政策と社会経済運動としての協同組合部門の対応を中心に」
金昌珍(キム・チャンジン)氏 聖公会大学社会融合学部教授
3.1独立運動が起きた1919年以降、現在までの韓国協同組合運動の歴史をふり返り、各時代における政治的制限や機会のもとで、協同組合の思想と実践が重ねられてきたことを話されました。また、現代の協同組合運動の課題は3つに要約できると示されました。「第一に、協同組合運動と地域社会の共同体運動との有機的な結合が必要です。韓国ではどういうわけかこの二つを別のものとして認識し、実践する際にも別々に動いてしまいます。第二に、社会連帯経済の一部として協同組合を位置づけて、より幅広く人々の参加ができるようにすること。第三に、次世代の育成です。社会連帯経済をパートナーとしつつ、どのように若者を迎えるのか、ということです」
- 韓国の社会的経済の未来戦略と二度目の「国際協同組合年」
金奇泰(キム・ギテ)氏 韓国協同組合研究所理事長
韓国の協同組合の歴史的背景と、韓国の経済発展とそれがもたらした社会問題(少子高齢化や格差の拡大、南東部への人口集中による不均等発展など)を解説したうえで、制定から10年が経過した韓国協同組合基本法について、①運動と経営、②責任と力量、権利と参加、③組合と組合外、のバランスを軸に成果と課題が検討されました。「基本法を協同組合一般法に全面改定するための議論の初年度にしたい。また現在、制定運動を進める社会連帯経済基本法には、包括的支援の根拠を盛り込みたいと考えています」。さらに10年後を見越した未来戦略として基礎自治体を中心とする多様な主体との連帯の方向性が示されました。
- 未来に向けた協同研究の報告——日韓共同調査研究プロジェクト第一回調査報告
下門直人氏 京都橘大学専任講師
石澤香哉子氏 一般社団法人地域開発研究所研究員
2025年国際協同組合年を契機に、日韓の若手協同組合研究者の交流促進と、韓国の社会的経済の推進策や活動実態・課題を学ぶことを目的として共同研究がスタートしています。本フォーラムでは、2025年1月に実施された日本側メンバーよる韓国訪問調査をご報告いただきました。ソウルや地方都市で事業を行う団体への視察と、日本における社会的経済の事例を通して、「人口減少や地方衰退は日韓共通の課題であり、その解決に向けたアプローチの一つとして協同組合への期待が高まっています。その時に互いの経験を学び合える関係が非常に重要だと考えており、研究者や実践者同士の交流も大事と考えます」と述べられました。
以上の報告を受けて、杉本先生からコメントをいただきました。最初に、韓国において協同組合運動100年を網羅する歴史書を編まれたことに敬意を表され、「今後深められるべき研究テーマとして、植民地解放前における日韓の協同組合の交流、日韓の生協で導入された班組織の歴史や課題、官主導の資本主義市場経済という共通の社会経済状況をもつ東アジアという観点で協同組合を考察することなどが必要ではないでしょうか」と述べられました。
その後、質疑応答を行いました。
最後に、閉会にあたって次のお二人からご挨拶をいただきました。
共催団体である韓国協同組合学会 前学会長の金亨美(キム・ヒョンミ)先生は、「韓国と日本の協同組合の連携は切実に求められます。例えば気候変動と災害、格差の是正、食糧不足、東アジアにおける戦争の防止といった様々な課題に、ともに努力して、共通の解決策を探るような研究・実践を続けていくべきだと思います」と述べられました。
また、後援団体の日本協同組合連携機構(JCA)常務理事の伊藤治郎氏は「韓国では既に協同組合基本法の課題を挙げて、次のステップに行こうとしています。日本では制定に向けて活動を進めていますが、そのために協同組合の価値や重要性についての認識を社会に広げる一年にしたいと思っています」と述べられ、フォーラムは閉会しました。