第19章 社会運動史としての韓国協同組合運動100年
――国家主導の近代化と自主的近代化、そして協同経済システムという選択肢の模索
キム・チャンジン
1.協同組合運動と社会運動
協同組合運動は、協同組合という近代的な組織形態を通じ、事業に参加した者が協同して経済的・社会文化的な豊かさの創出を目指す社会運動である。19世紀初頭、イギリスで消費組合という形で展開された協同組合運動は、資本主義的工業化により不利な立場に置かれた下層民の自己救済策として登場した。19世紀中盤以降のドイツの信用組合、フランスとイタリアの労働者協同組合、20世紀初頭にはデンマークとロシアの農業協同組合などにより、その社会的価値が証明されてきた。その本質は、これらの国々で強行された社会経済変動と、その推進役である政治決定への対応策として現れたといえよう。つまり近代における協同組合運動とは、資本主義市場経済という光の陰で呻吟する民衆の、生存権を求めて下からわき起こった自発的な動きであった。
しかし社会経済運動として形をなすには、他領域からの参加、すなわち先駆的な知識人や宗教人、改革を推進する政治家の積極的関与が必要であった。自生的な民衆と社会的なビジョンを持つ思想家および組織活動家が結びつき、各団体や事業体の枠を超えて、社会全体の改革を視野に入れた戦略的な協同組合「運動」が展開可能になった。このように、協同組合運動は資本主義的近代化の産物であり、貧しい現実から抜け出そうとする民衆の集合的な自己救済策であり、かつ資本と国家が一体となった近代化路線を乗り越えるような、これまでとは異なる社会経済制度の選択肢を集団として追求するものであった。
そもそも社会運動とは、既存の秩序と制度、政策を変えようとする集合的な行動現象である。したがって、社会運動の発生と拡大の要となるのは参加者の自発的意思と戦略である。とはいえ社会運動が単に少数の指導者による啓蒙運動にとどまらず、大衆が参加するものとなるには、社会経済的、政治的条件がある程度成熟している必要がある。例えば、多くの社会構成員の生活に多大な影響を与える経済体制の激変、そのような制度と変化を可能にする政治体制の確立と政策変動、そしてこれまでの世代にはなかった社会文化的現象が生まれることなどだ。しかしこのような社会的条件の変化は、自然現象ではなく、時の政府や支配エリートによる政治的決定に大きく左右される。つまり多くの場合、経済権力と政治権力を持つ上層グループが法、制度、理念をめぐるポリティクスを動かし、自身の利益を維持・強化することを意図して行う政策から生じている。
協同組合運動を社会運動の視角から検討するために、これを社会経済運動として捉えつつ、当時の社会構成員が生活する社会経済的条件に加えて、社会資本、政治的機会の構造〔運動の発生や展開を規定する政治的諸条件〕、運動主体の形成と理念、戦略などを分析しなければならない。社会経済的条件とは、社会構成員の日常生活において切実に必要とされるものを規定する要素である。社会資本とは、地域社会や業界の構成員の間に存在する相互扶助と信頼の伝統、共有規範と結束、ネットワーク、公共的関心を指しているが、それらのレベルによって、特定の地域や部門における協同組合運動の発生や持続性はかなり異なる。周知のように、韓国社会では「契」や「トゥレ」といった協同組織の伝統が長く維持されてきた。とはいえ協同組合運動は、支配的な政治理念あるいは制度の開放性や閉鎖性によって、自由に発展することもあれば、制約に直面したり、政府機関に取り込まれたり、完全制圧され解散措置に直面することもある。国家権力と支配理念はヘゲモニーを維持するために、協同組合のような典型的資本主義とは異なる経済制度を統制し包摂しようとする傾向がある。さらにいえば協同組合運動は、指導力の性質と資源動員力、そして協同組合に対する組合員の理解度、および事業の大きさによって、成長と成果に少なからず差異が生じる。
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