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第8章 信用協同組合の初期段階における成長と政府の介入による変化

チェ・ジンベ


1.成長段階の区分


各『信協運動史』が区分する成長の段階

 信用協同組合(信協)は、過去3 度、信協運動史を編纂・発行している。『韓国信協運動20年史』(1980年発行。『20年史』)、『韓国信協運動30年史』(1991年発行。『30年史』)、『韓国信協運動50年史』(2011年発行。『50年史』)の3冊である。ただし、各運動史が区分する成長段階は異なっている。そこで本稿は、最初に、3冊の『信協運動史』がどのように成長段階を区分しており、またその区分がどのような特徴を持っているのかを簡単に説明する。


 『20年史』と『30年史』では、信協運動が始まる前の1957年から1960年を胎動期または黎明期と区分している。信協運動の創立前史ともいえよう。そしてこの時期に登場する中心人物の一人が、米メリノール会の修道女で米国人のカビョル(가별)シスターである(本名は、メリー・ガブリエラ・ムルヘリン(Mary Gabriella Mulherin)だが、信協の人々はしばしば、カビョルシスターと呼んでいた)。1957年12月から1958年1月まで、カナダの聖フランシスコ・ザビエル大学(St. Francis Xavier University)で、アンティゴニッシュ運動〔1920年代に、カナダのノヴァスコシア州アンティゴニッシュにおいて、コーディ博士とトムプキンス神父が指導した、貧しい農家や漁民のための自力更生運動や協同組合を柱とする地域社会開発運動〕について学んだ。その後韓国に戻り、信協設立の必要性を確信し、志を共にする人々と研究会を開き、学習会を重ねた。さらに彼女は、信協運動を準備するための講習会を開催した。最初の講習会は30人を対象に、1960年3月9日から5月1日まで7 週間、開催された(1)。そして最終日の4月30日に、27人の組合員によって、「聖家信用協同組合」を釡山に設立した。


 この時期に重要な役割を果たしたもう一人の人物は、韓国人の張大翼(장대익)神父である。張大翼神父はソウル地域で活動した。カビョルシスターより先の1956年に、聖フランシスコ・ザビエル大学で信協運動について学んだ張大翼神父は、1959年9月から韓国のカトリック教会の指導者たちに信協運動を紹介し始めた。こうした彼の活動を通して、当時、カトリック教会内で研究していた協同経済研究会(会長:キム・ドンホ(김동호))の会員たちと自然につながりを持つようになった。1960年5月14日に、彼は信協設立のための準備会を開き、6月26日に「カトリック中央信用協同組合」をソウルで設立した。


 『30年史』では、信協が設立され始め、1972年に「信用協同組合法」が制定されるまでの期間を「開拓期」と位置付けている。


 それに対して『20年史』では、この期間を「開拓期」と「定着期」に区分している。「開拓期」と呼ぶのは、個々の信協の設立時期が地域によって異なることと、この当時は、特定の運動主体を持たずに信協が設立されていった状況を反映している。さらに『20年史』が、1964年を「定着期」の始まりとしているのは、同年に「信用協同組合連合会」が設立されたことで、信協運動が体系的に展開されるようになったという状況を反映している。それと同時に信協は連合会の設立以降、信協法の制定活動を本格化させていった。立法推進活動を展開するにあたって、信協は政府に信協運動の意義と価値はもとより、事業面における持続可能性も示す必要があった。その点においても「定着期」という区分は理解できる。ただし実際に信協法が制定されたのは1972年のことであり、『20年史』が信協法制定以前を「定着期」と区分するのは、信協法制定の意義を軽視することになるだろう。


 したがって『30年史』が主張する1972年に「定着期」が始まったという区分と、『50年史』が主張する信協法の制定後に「基盤構築」期が始まったという区分の方が説得力がある。信協法の制定によって国から信用力が付与されたことで、信協運動は一歩前進することになったからである。


 その一方で『20年史』は、1975年から1979年の期間を「過渡期」としている。そこには、1975年以降の信協運動を取り巻く環境、具体的にいえば、信協運動における危機的な問題意識を強調しようとする意図がうかがえる。この時期、信協の人々は、政府の介入によって信協運動が脅かされていると感じたはずだからだ。1974年4 月25日に政府は信協法の施行令を改正して、「マウル金庫」〔マウルとは村、まちの意。マウル金庫は農村地域の開発に寄与するために住民が資金を出しあい、資金造成や利用を行う非営利法人〕に対する指導監督権を地方自治体の長に委任した。


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