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市民セクター政策機構

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論文(岡田 一郎)

【2023年7月】2023年統一自治体選挙に現れた注目すべき新たな動き

○女性の進出が目立った統一自治体選挙

2023年4月23日に実施された統一自治体選挙後半戦は、女性の進出が著しかった選挙とされている。

『朝日新聞』2023年4月25日付朝刊によれば、市長選では過去最多となる7人の女性候補が当選し、市議選では当選者の女性比率が初めて2割を超え、千葉県白井市・兵庫県宝塚市・東京都杉並区・埼玉県三芳町の4市区町では女性の当選者が半数を超えたという。

 

○統一自治体選挙とLIN-Net

このような地方政治における女性の進出を後押しした一つの流れが、「Local Initiative Network(LIN-Net)」である。LIN-Netは昨年12月、ヨーロッパで台頭するミュニシパリズム(地域主権主義。新自由主義の浸透によって民営化された社会資本を市民の手に取り戻そうという考え)を旗印に、保坂展人(世田谷区長)・岸本聡子(杉並区長)といった首長や政党を超えた多数の地方議員、研究者、市民などが集ったゆるやかな結合体である。LIN-Netは政治団体ではないので、先の統一地方選挙において、特定の候補を推薦することはなかったが、統一地方選挙直前の3月13日に第3回集会を開き、統一自治体選挙への立候補を決意した多くの若者・女性候補を登壇させ、こうした候補を支援する決意を表明していた。その背景にあったのは、日本だけでなく世界中を跋扈する新自由主義に対抗するためには、自治体の民主主義を強化しなければならないという思いである。

現代の資本主義はあらゆるものを商品化した結果、ついにはこれまで商品にしてこなかったもの(例えば、公園などの公共財や、水や医療など人間の命にかかわるもの)まで商品化しようとし、あるいは既に商品化している。そのためには、商品化されたものを公に戻していく必要がある。公に戻すというのは単に国家が管理するという意味ではなく、市民が主体的に参加して、誰でも安価でアクセス出来るようにするということである。そのためには新自由主義に対する抵抗運動を起こすだけでなく、そこからさらにすすめて<コモン>を広げていく必要がある。これがヨーロッパで起こっているミュニシパリズムの動きであり、日本でも東京都の西部でそのような動きが起こりつつあるのだ。

(LIN-NetのURL: https://localinitiative.wixsite.com/lin-net

 

○女性が半数を占めた杉並区と24名の当選を実現したFIFTYS PROJECTの奇跡

そして、6月27日、LIN-Netは、なかのZERO小ホールにおいて、第4回集会を開き、統一自治体選挙の総括をおこなった。統一自治体選挙では上記のように予想以上の女性候補の進出という結果を受けて、場は終始、参加者の高揚した気分に満たされたものとなった。この場では、新人候補の進出が著しかった杉並区と女性候補の地方議会進出を後押しするFIFTYS PROJECTの取り組みが紹介された。

杉並区では2021年の総選挙で、1990年総選挙以来の連続当選を誇る自由民主党(自民党)の石原伸晃を立憲民主党の吉田晴美が破り、2022年の区長選挙では新人の岸本聡子が僅差で3期12年務めた現職区長を破るという奇跡が続いていた。2023年の統一自治体選挙では「区長は代わった。次は議会だ」を合い言葉に区長支持の若者・女性候補が区議選に大量に立候補し、その結果、投票率は約4%上昇し、約2万人が新たに区議選に足を運んだ。区議選の結果は、定数48のうち、新人15人が当選し、現職12人が落選するという、区議会の顔ぶれを大きく塗り替える結果となり、女性議員が半数の24人を占めるに至った。杉並区は第3の奇跡を実現したのである。

また、2021年の森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委員会会長(当時)の女性蔑視発言をきっかけに成立したFIFTYS PROJECTは、ジェンダー平等実現のために地方議会に多くの女性候補を送り込もうと、統一自治体選挙に20代30代の女性29名の候補を擁立し、うち24名の当選を実現した。

(FIFTYS PROJECTのURL:https://www.fiftysproject.com/

 

○政党本位から候補者本位の投票行動が増加

今年の統一自治体選挙を見ると、有権者は政党本位ではなく、候補者本位の投票に移行しつつある傾向が垣間見える。Lin-NETの集会に登場した若い女性議員たちも「私は気候危機に取り組む」「私はジェンダー平等を実現したい」というように、自分の主張が明確だったことが印象的だった。

杉並区において、新たに投票場に足を運んだ有権者が、候補者が区長支持派かそうでないかをみきわめ、主張が明確な区長支持派の候補者に多く投票したことからも、有権者が政党本位から候補者本位の投票をおこなったことが垣間見える。このような例は他にもある。例えば、日本維新の会の根拠地であり、日本維新の会の看板を掲げればどんな候補でも当選するイメージのある大阪府の首長選挙では、日本維新の会の候補がふるわなかった。有権者は日本維新の会の看板よりも候補者の人となりや主張に重きを置いたのである。統一自治体選挙だけでなく、参議院議員選挙においても、このような傾向は垣間見える。非拘束名簿方式導入以降、参議院議員選挙の比例代表区における自民党の上位当選者は巨大な支持団体の組織内候補が占めていたが、特定の支持団体も一般的な知名度もなく、「表現規制反対」の主張一本槍の候補が2019年に比例2位、2022年に比例1位で当選している。「表現規制反対」という主張とそれを主張する候補への信頼が巨大な支持団体以上の有権者を投票場へと向かわせたのである。

 

〇議員数が全国で半減した「代理人運動」

いずれにせよ女性候補の進出という傾向は、かねてより女性候補を多く擁立してきた生活クラブ生協等の組合員が進めてきた「代理人運動」には追い風となるはずであった。しかし、全国各地の生活者ネット等の議員は2003年統一自治体選挙で150人当選させたのを最多として、以後、低落傾向が続き、今年の統一自治体選挙で、議員数は70数人と最盛期の半分へと減少している。

最大の原因は候補者擁立が困難になっていることだ。私は長年、日本社会党や革新自治体の研究を行ってきた。(拙著『革新自治体―挫折と熱狂に何を学ぶか』参照)生活クラブが代理人運動をスタートさせた1970年代後半は、市民が立候補することは容易でなく、選挙費用や選対組織を候補者自らが準備する必要のない代理人運動は斬新だった。

しかし今や立候補の意志あれば、無所属でも当選可能だし、れいわ、立憲、社民等は大歓迎してくれる。

任期を2期3期に限定し、議員報酬も月20万円×〇カ月という歳費管理のルールで地域ネットの活動費を捻出するという仕組みは専業主婦層には理解を得られた。しかし、専業主婦が少数になった今の時代、ましてやこれからの若い人々にとっては、受入れられるのだろうか。

代理人運動は、こうした有権者の変化を慎重に見据えながら、新たな候補者擁立戦略を打ち出す必要があるのではないだろうか。

 

博士(法学)
小山工業高等専門学校非常勤講師
日本大学生産工学部非常勤講師
東京成徳大学人文学部非常勤講師

市民セクター政策機構客員研究員