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論文(崔 珉竟(チェ・ミンギョン))

【2023年7月】韓国の社会的経済と政治5.「未来志向に欠けた保守政権下の協同組合基本計画」

韓国の社会的経済は2011年12月「協同組合基本法」の制定を契機として活性化してきた。協同組合基本法は、既存の個別法(農協法、水産業協同組合法、生協法など)で包括できない領域で事業を行う協同組合を設立する根拠法となった。協同組合基本法に基づいて設立された協同組合は2022年12月に2万3000組合を突破し、現在の組合員数は50万人以上と推定される(20年12月の実態調査では49・3万人)。そして、協同組合基本法により設立された協同組合が社会的企業、マウル企業、自活企業(注1)として認証を受ける事例も増加した。

法制定以降、政府は協同組合に関する政策を総括し、協同組合の自律的活動を促進するための基本計画を3年ごとに策定している。法制度整備、教育·創業·販路などの間接的な支援政策、地域別の中間支援機関、情報システムの運営などに努め、結果として多様な分野で協同組合が設立された。

ただし協同組合は量的に拡大する一方で、質的な成長は低い。協同組合の事業継続率49・5%、平均売上高2・9億ウォン、連合会参加率16・3%(2020年)というデータに表れており、協同組合のアイデンティティを理解し、実践する組織が少ないと言える。また、自治体(広域・基礎)と中間支援機関で支援業務が重複していることも問題だ。

今号では、協同組合基本法制定後10年を振り返り、さらに第4次基本計画(2023~25年)の概要を紹介する。そして、第4次基本計画で言う「10年以上堅実に持続する『成熟した協同組合』」を展望するための筆者の意見を示したい。

 

注1) 社会的企業とは、協同組合、株式会社、NPOのなかでも特に社会的弱者のための事業を行う事業体、脆弱階層の人々自身が行う事業体。マウル企業とは、地域資源を活用した収益事業をし、地域社会の問題を解決して所得や雇用をもたらし、コミュニティの利益を効果的に実現する事業体。自活企業とは、「国民基礎生活基本法」(日本の生活保護法に相当)において貧困層の生活費の支給だけでなく、経済的自立のための活動を支援する事業推進を定めており、その事業推進の結果として生まれた事業体。

 

協同組合基本法制定後 10年間の成果と評価

 

①企業としての成長および雇用創出への貢献

 協同組合の中でも特に社会的協同組合の設立が急増し、事業分野も教育芸術、保健、科学技術など多様となっている。また協同組合が成長することで、特に脆弱階層の働き口が増加し、賃金など労働条件も改善された。とはいえ、相当数の協同組合が零細のままなので、協同組合が成長を通じて自生力を確保できるよう、競争力強化が必要である。

 

②コミュニティ問題を解決する様々な協同組合の登場

 特に社会的協同組合は介護サービス、科学、技術、教育、医療などの分野で共同体の問題解決に可能性を示した。しかし、協同組合による社会サービス事業への参加率は、社会的企業や社会福祉法人に比べて不十分だ。社会福祉施設と在宅長期療養事業に進出した協同組合は、22年で399組合であり、韓国の全施設数2万5297のうちの15・7%に過ぎない。

 

③協同組合間の連帯と協力が強化される基盤づくり

 協同組合の設立が増えるに伴い、同一業種間や地域間の連合会設立が増加した(2013年15→22年127連合会)。各連合会は共同調達、販売、教育などを通じて会員協同組合の活動を支援、利益を代弁しているが、協同組合の連合会参加率は低く、連合会の役割にも課題がある。

なお22年10月の基本法改正により、信協、生協が参加する異種協同組合連合会(注2)の設立が可能となった。22年12月時点で、一般協同組合連合会が93、社会的協同組合連合会が25、異種協同組合連合会が9、存在している。

 

④協同組合活性化のための法、制度基盤づくり

 協同組合の活動を促進するため間接的支援体系を明示し、異種協同組合連合会、優先出資(注3)、公共機関による優先調達などの制度が用意された。なお、社会的協同組合が政府の財政事業に参加したり、指定寄付金団体に認定されるためには、経営情報公示と透明性強化への努力が必要だ。

 

注2)      異種協同組合連合会の定義…協同組合基本法に基づき設立された協同組合·社会的協同組合、消費者生活協同組合法に基づき設立された協同組合、信用協同組合法に基づいて設立された協同組合が、共同の利益を図るために設立した連合会であり、5つ以上の組合が集まって設立認可の申請が可能となる。

 

注3 )    経営の透明性と財務状態が良好な協同組合は、自己資本の拡充による経営の健全性を図るため、定款で定めるところにより、議決権が制限される代わりに剰余金配当において優先的地位を有する優先出資を発行することができる。協同組合基本法第22条の2第1項で定められた。

 

第4次協同組合基本計画に対する市民社会の議論

 

 以上の成果と課題をふまえ、2023年3月に第4次基本計画が策定、着手された。

4月12日には「協同組合の質的成長のための政策の方向と、企画財政部の役割」を主題にして、協同組合に関心のある国会議員と全国協同組合協議会、韓国協同組合学会など10団体が共同して討論会を開催した。

 基調講演「第4次協同組合基本計画を含む協同組合発展政策および政府部署の役割に対する提言」を行ったチャン・スングォン聖公会大学教授は、協同組合基本法制定10年間の成果として、①企業としての成長と雇用創出、②共同体の問題解決に寄与、③協同組合間の連帯と協力、④法、制度、支援インフラを用意できた、と評価した。さらに、「協同組合には共同体論理(連帯、協力)と市場論理(ビジネス、競争)が共存し、協同組合の発展は組織アイデンティティ強化と革新を通じて可能である。つまり協同組合は社会的価値の実現、公共と社会統合、そして団体としての共同体論理を持ちつつ、国民経済への貢献と、事業体として市場論理を持っている」と述べた。そして協同組合発展に向けた提言として、「政府の全省庁が協同組合政策に結びつくこと、すなわち企画財政部は経済社会未来戦略政策、中小ベンチャー部は小商工人·中小企業振興政策、保健福祉部と雇用労働部は社会問題解決政策につながるべき」と指摘。さらに「政府内の協同組合振興担当部署や、小商工人中小企業類型の協同組合を支援する協同組合支援局(課)の新設、協同組合企業振興公団といった機関が設立されなければならない」と提案した。

 基調講演に続く討論で、チェ・ヒョクジン元 靑瓦台(大統領府)社会的経済秘書官は「第4次基本計画は以前の基本計画に比べて現実分析と時代精神が反映されておらず、政策目標や個々の政策別実行計画は具体性に欠けているので、協同組合の現場では疑問と不安感が持たれている」と指摘した。さらに「政府の企画財政部は、従来3チームで運営していた協同組合の担当課を段階的に縮小し、現在は『持続可能経済課』と名称を変更して1チームだけになった。これは現在の企画財政部が協同組合基本法制定初期の積極性とビジョンを失い、基本的な政策推進の意志さえないということだ」と批判した。

 また、「第4次基本計画に期待が持てない」という協同組合側からの指摘に対して、政府の協同組合担当部署の持続可能経済課長は、「実行過程で現場の意見を反映する。個別の協同組合(農協、生協、信協など)に比べ、協同組合基本法に基づき設立された協同組合への支援が絶対的に不足していることは認識しているので、これらの解消策も準備する。第4次基本計画では協同組合の革新型モデル育成事業と地域消滅危機の解消に力点を置いている」と弁明した。

 実は昨年、保守的な尹錫悦政権が誕生したことにより、第4次基本計画の内容がそれ以前より大きく後退することは予想されていた。討論会の参加者が異口同音に憂慮を表明したように、私も大変に懸念しており、いくつかの問題点を指摘したい。

 

「成熟した協同組合」を拡大するために必要なこと

 

 第4次基本計画で設定された個々の課題は、韓国社会が抱える多様な課題の一部であるにもかかわらず協同組合の現実と相当、乖離している。

 第1に、良い働き口の創出と規模の拡大は、現在の協同組合が自主的に取り組むだけでは不可能だ。現在、政府が行っている社会的企業を対象とした働き口支援事業を協同組合にも適用すべきだし、中身も長期的かつ企業の規模と業種に合わせたオーダーメード型支援にしなければならない。第2に、協同組合の実態をふまえた基本計画をつくるためには協同組合の業種別分析が必要だが、それが欠落していた。社会的価値と事業性の両方を持つためには、事業ごとに必要な資源と、それをどこで誰と共に活用するのかを明らかにすることが、持続可能な協同組合の生態系の創造につながると考える。

 第3は、第4次基本計画で示された地方消滅危機という課題についてである。この問題を解決するためには、協同組合が果たす役割を議論するというより、協同組合が提示する事業と活動を政府が積極的に受け入れてパートナーシップを発揮しなければならないと考える。現在、協同組合基本法の下で設立された2万3000組合の5割以上が首都圏に集中している。この状況を鑑みると、地方行政は協同組合への認識を抜本的に変える必要があるはずだ。地方行政は既存の農協との関係には慣れているが、住民の自発的な意志によって設立される協同組合との関係はそうとも言えない。地方行政がそうした協同組合とのパートナーシップを持たなければ、地方消滅危機はさらに早く加速化するだろう。第4に、尹錫悦政権の誕生以降、廃止された社会的経済関連の部署別政策と予算が早急に復活されなければならない。先の討論会で持続可能経済課長は「協同組合関連予算は76億ウォン(約8億円)」だと説明しながらも、「社会的企業やマウル企業の事業予算に比べて非常に少ないのは、協同組合が自立と自発性に基づいて設立されるため、協同組合基本法の制定当初から他の組織に比べて事業予算策定が相対的に少なくならざるを得ない」と述べた。しかし、協同組合の量的・質的成長を望むなら、一日も早く予算の修正増額が必要である。

 協同組合第4次基本計画の限界性は、現政権における社会的経済をはじめとする協同組合に対する認識の低さによって生まれたものである。現在の韓国政府は大企業の成長を通じた国家経済の成長、そして半導体や自動車など一部の輸出品目を中心とした支援政策を推進している。当面はそれでいけるかもしれないが、米国や欧州諸国が自国企業に対する保護政策を強めるなかで、韓国のこのような経済政策は国家経済に深刻な危機として迫ってくるだろう。であればこそ、来る経済構造の変化をふまえた計画を準備し、特に協同組合が国家経済に参加する比重を高める政策とシステムを準備しなければならないはずである。

 

元・城南市社会的経済政策官
●住民ドゥレ生協常務理事を経て、2019年まで京畿道の協同組合連帯組織である京畿道協同組合協議会事務局長。
21年~22年、城南市社会的経済政策官を務める。市民セクター政策機構客員研究員