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論文(瀧 大知)

【2023年10月】「アイヌヘイト」を煽り、囃したてる政治家たち

蔓延するアイヌヘイト

 

 アイヌ民族はいる。差別はある。昨今、この常識を何度でも確認しなければならない状況がある。
 インターネット空間を中心に「アイヌはいない」という存在否定のヘイトスピーチ。2020年7月に北海道白老郡に開業した「民族共生象徴空間」(通称:ウポポイ)などアイヌ関係の事業や施策に対する「アイヌ利権」という揶揄。あるいは「在日コリアンがアイヌに成りすましている」といった陰謀論的な書き込み。そこから「ザイヌ」なるスラングまでも生み出され、ヘイトが日々(再)生産されている。
 それを担うのは、市井の「ネトウヨ(差別主義者)」に限らない。市民の代表であり、社会規範の生成に強い影響を及ぼす政治家の姿まである。

 

公的な施策と差別の実態調査

 

 アイヌが先住民族であり、差別を受けていることは国も認めている。
 2019年、アイヌを「先住民族」と明記した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(「アイヌ新法」)が成立。第4条ではアイヌへの差別を禁止している。2016年に制定された「ヘイトスピーチ解消法」は、対象が外国人に限られるという課題があったが、2016年5月26日の参議院法務委員会における「ヘイトスピーチの解消に関する決議」には、「全国で今も続くヘイトスピーチはいわゆる在日コリアンだけでなく(中略)アイヌ民族に対するものなど多岐にわたっている。私たちは、あらゆる人間の尊厳が踏みにじられることを決して許すことはできない。」と記載された。
 内閣府(アイヌ総合政策室)は2016年3月に「国民のアイヌに対する理解度についての意識調査」報告書を公表。北海道(アイヌ政策推進局アイヌ政策課)も1972年から定期的に「アイヌ生活実態調査」(計8回)を行なっており、結婚や就職など様々な場での差別の実態が明らかとなっている。また2019年4月10日の国土交通委員会では、政府参考人(内閣官房アイヌ総合政策室長)が「ヘイトスピーチにつきましては、例えば、民族としてのアイヌなんてもういないといったような趣旨の心ない発言が今も繰り返しなされている」ことを承知していると回答した。

 

ヘイトを煽動する政治家たち

 

 政治家によるアイヌヘイトとして記憶に新しいのは、差別発言で有名な杉田水脈・元総務政務官(自民党)であろう。杉田は2016年2月にスイス・ジュネーブで開かれた国連女性差別撤廃委員会に行ったことを書いたブログで、参加者のアイヌ/在日コリアン女性を「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」と中傷した。2022年11月30日の参院予算委員会でこれが取り上げられ、強い批判を受けた。これも契機となり、同年12月27日に総務政務官を辞任した(注1)。しかし当人は差別と認めていない。
 地方議会では2014年8月11日、当時自民党の札幌市議会議員であった金子快之がTwitterに「アイヌ民族なんて、いまはもういない」と書いた。
 同年11月11日には北海道議会において、自民党の小野寺秀議員(当時)が「アイヌ民族が先住民族かどうかには疑念がある」と発言した(注2)。小野寺は元道議となった今も同様の発言を続けている。最近も「北海道アイヌ協会」が作成した「道内にお住まいのアイヌの方々からの相談をお受けします」という相談専用フリーダイヤルが記載されたポスターを示して、「これが『アイヌ利権』と呼ばずして何と呼ぶ?」とツイートした(2023年6月23日投稿)。ここには多くの差別的なコメントが付けられている。