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3.なぜ認可を受けずにグループリビングを開くのか(特定非営利活動法人結いのき専務理事 井上 肇)

季刊『社会運動』2018年7月【431号】特集:年金一人暮らし高齢者に終の棲家はあるのか

認可された瞬間から共同運営の意識は消えていく

 

 2009年1月にオープンしたグループリビングCOCO結いのき・花沢は予算の約7割を補助金で賄えましたが、18年7月オープンの2号館はすべて自前です。総工費約2億6000万円のうち2億4000万円は借金なので、20年間で毎月120万円ずつ返済していかなければなりません。

 2号館でもサービス付き高齢者住宅や介護施設を作るつもりはありませんでした。みなが自立して最後までトイレも一人で行きたいし、自分でご飯を食べたいし、好きなことをやりたい。誰もがそう願うことを実現できるような住まいを作るつもりです。

 経営を考えたら大きい建物にして入居者数を増やした方がいいのですが、そうではなく、入居者がいかに地域の中でいつまでも元気で生きられるか、ということが私たちの目的です。入居者の間でのコミュニティづくりや、自立と共生を実現したいと考えたら、これまでのたくろう所とグループホーム結いのきの経験から10人くらいが適正だと思いました。

 実は、1号館設立の時は問題なかったのですが、2号館設立にあたっては山形県からなかなか建築確認済証が出ませんでした。建設課に1号館と同様に申請手続きをしたのですが、担当者がなかなかグループリビングを理解できず、グループホームとか有料老人ホームとみなすのです。

 06年の老人福祉法改正により、設置者が外部の事業者に委託してサービスを提供する場合は有料老人ホームに該当すると明確化されていました。グループリビング結いのきでは「結いのきグループを支える会」が、食事や家事を、入居者から委託されて行ってきましたが、契約書や集金が入居契約書と一緒になっているため、実態とは違っても有料老人ホームとみなさざるを得ない、というのが県の担当者の意見でした。「これを機会に有料老人ホームを名乗ってはどうか」と問われましたが、私たちは「主旨が違っている」と断りました。

 理由は、介護保険制度が財政的に苦しくなり、今後、本当に必要な人が、必要な時に、必要な内容で利用できるためには、一方で自立度を上げていくことが必要であり、そのためには入居者同士の助け合いの場としての高齢者共同運営住宅の存在は、ますます大事になってくるからです。

 また、有料老人ホームと名乗った瞬間から、利用する方も事業者側も、「助けられる人と助ける人」になってしまい、「共同運営」や「入居者同士の助け合い」の意識は育たなくなります。

 超高齢化が進む中で、現在の介護保険制度や慣行に頼っているだけでは、現状に追いつけません。16年の介護保険制度の改正では、日常生活に支障があっても軽度とみなされる介護認定「要支援1」「要支援2」の人を対象とする介護サービスは、各市町村による「総合事業」に移り、その財源は国から各市町村負担へと変わりました。

 今後も財政の悪化などによって、本当に困った時に希望の支援を受けられなくなる高齢者が増えていくでしょう。このような状況で、できるだけ介護保険制度に頼らない高齢者の自立生活支援は、ますます重要になります。その一つの代案として、今後もグループリビングのあり方を試行錯誤しながら提案していきたいと思います。 

(P.37~P.39記事から抜粋)

 

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