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「復帰」を知らない若者

 

 2022年は、1972年5月15日に、沖縄の施政権が米国政府から日本政府に返還されて50年を迎えた節目の年である。地元紙や地元TV局は、昨年末から連日のように「復帰50年」の特集を取上げてきた。NHKの朝ドラ「ちむどんどん」も、復帰50年を記念しての沖縄テーマとされている。


 県内高校生の近現代史に関する知識を問うアンケートを定期的に実施している、県内教員グループ沖縄歴史教育研究会の発表で、復帰の日「5月15日」を選択肢の中から答えられた高校生が22%しかいなかった、ということが県内で反響を呼んだ。日付を記入する方式だった15年前、10年前には、それぞれ11%、14%だったというので、これは今始まった状況ではない。


 筆者が2008年に、担当科目の学生200人ほどに「5月15日は何の日か?」という、かなり容易な質問をした時の正答率は28%だった。今年度の初めに、1、2年生の少人数クラスで「今年は沖縄県にとり大きな節目の年だが、何か?」と問うた際に、合計34人の学生の一人も「復帰50年」を知らなかったという結果には、分っていたこととはいえ、さすがに衝撃を受けた。歴史は、年号や日付を丸暗記するものではない、という批判は理解した上で、この状況は、沖縄の若者に、歴史の大まかな流れすら知識として定着していない事実として捉えるべきである。


 この状況は、沖縄の若者は、現代史を知らない事実、新聞、TVという報道機関を全く目にしていない事実の反映である。高校までの教員の努力により、沖縄戦に関しては、何かしら学ぶ機会があるが、沖縄戦が終わった後の「戦後」の歴史を、沖縄の若者は知らずに育っている。筆者が14年前に教えた時に「復帰の日」を知らなかった年代は、既に30代後半である。


 若者が歴史を知らないということは、はるか昔の筆者の学部生時代にも、自分達に向けて投げかけられた批判である。いつの時代にも、年少者に対して同じ事が言われてきたのであろう。しかし、沖縄県民が、戦後の歴史を知らずに生きていけば、日本の他県とは異なり、存在そのものを揺るがす事態ではないかと懸念する。沖縄の戦後史を知らないから、米軍基地の存在が当たり前になり、沖縄が保ってきた独自の文化の価値を理解できず、「今」の沖縄が宙に浮いた存在としてのみ彼等の頭の中にある。

(P.120-P.121 記事抜粋)

 

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