②沖縄を子育て支援施策のモデル県に(一般社団法人沖縄県子ども総合研究所所長 堀川 愛)
─堀川さんは沖縄県に働きかけて、子どもの困窮状況を把握するための調査を実施されたのですね。
私は神奈川県出身ですが、東日本大震災後(2011年)に沖縄県に移住しました。移住後しばらくしてから、諸事情により、ひとり親として子ども5人を育てることになりました。その実経験から、所得の低い沖縄県での子育ては特別な事情がない世帯でもかなり厳しい経済状況になっていることがわかりました。国は2012年の「国民生活基礎調査」で、6人に1人の子どもが貧困状態にあると発表し、14年に子どもの貧困対策に関する大綱を閣議決定しました。沖縄県でも「子どもの貧困対策計画」の策定を進めていました。県は国の子どもの貧困率を基にした計画策定を予定していましたが、県民の生活実態にあった施策を実現するためにはより丁寧な調査が必要だと考え、仲間とともに「一般社団法人 沖縄県子ども総合研究所」を立ち上げ、県に働きかけました。その結果47都道府県中、沖縄県だけが県単体の子どもの貧困率を算出し、全国最初の子どもの生活実態調査の実施へとこぎつけました。
2015年の第1回の調査では、小学5年生と中学2年生、その保護者を対象に実施。16年は高校2年生と保護者、17年は乳幼児の保護者、と3年サイクルで調査をしています。現在もこの調査は継続されており、沖縄県は21年に実施した3サイクル目の最新の調査結果を公表しています。
第1回の調査では、沖縄県の子どもの貧困率が3人に1人と、実に全国の約2倍であることがわかりました。この調査を行うまでもなく、沖縄県は1972年の本土復帰からずっと、県民所得が最下位であり、全国の平均所得に対して約7割の県民所得であることは周知の事実でした。子どもの貧困問題を契機に、これまでその事実を把握しながらも対策が講じられることがなかった部分にスポットがあたったともいえます(沖縄県の資料によると2018年の1人当たりの県民所得は239・1万円で、全国平均所得の74・8パーセント)。
この調査で特筆すべきところは、自由記述欄でした。調査対象となった保護者や児童生徒たちの3割強の方々が、A4調査用紙の最後のページに、思いや苦悩を書き込んでくれました。一面に小さな字でびっちり書かれていたり、書ききれなくて脇にも書き込まれていたり、涙の痕が残っていたものもありました。書き込み式にしたため、数字だけでは見えない実態をうかがうことができました。
生活実態調査でよくある項目として「朝食を誰と食べているか」という質問があったのですが、それについての記述のなかに「早朝勤務のために朝食の準備をして、子どもに声をかけて出かけている。私だって子どもと一緒に朝ご飯が食べたい」「(子どもに)一人で食べさせている。学校に送り出せないことも、毎日苦しい」などと、暮らしのために子どもよりも先に出かけていく保護者の苦しい気持ちが書かれていました。
沖縄県では時給が安いこともあり(2021年の最低賃金は820円。東京は1041円)、一つの仕事だけでは経済的に苦しく、長時間労働をするか、ダブルワークをして早朝や深夜勤務の工場やコンビニに働きに出ている保護者の方もいます。
自由記述の内容を見て、2年目以降はこの質問をなくしました。このことを質問しても、行政施策として子どもたちと朝食をとりたい保護者の方に対して具体的な支援を打ち出すことができず、回答者を傷つけるだけになってしまうからです。行政調査をやるのだから行政が何らかの対応・対策ができる質問に限るようにと調査項目を変更しました。
(P.91-P.92 記事抜粋)