書評『沖縄子どもの貧困白書』
沖縄県子ども総合研究所、その他 編著(かもがわ出版2017年)
全国初・県独自算出で浮かび上がった沖縄の子どもの貧困
生活クラブ生協・静岡理事長 平山和美
2015年、沖縄の子どもの貧困率29・9パーセント、衝撃的です。2013年に子どもの貧困対策の推進に関する法律が、国会の全会一致で成立し、翌年には「子供の貧困対策に関する大網」が策定されました。
それを受け沖縄県では重要な問題であると判断、実態を把握することで実生活に即した計画策定を行うとして調査研究チームを結成、官民タッグを組み独自に調査を実施しました。その結果、全国初・県独自算出で子どもの貧困率29・9パーセント、約3人に1人が経済的貧困(低所得)にあることがわかったのです。
この調査で可視化された沖縄の貧困の現状は所得の低さだけでなく色々なことがわかりました。離婚率、ひとり親世帯の割合、年少人口の割合などが全国で一番多いこと。また、聞き取り取材では現行の子ども支援制度のほとんどは対象となる保護者が名乗り出て支援を受けたいと申請することを前提としています。しかし、生活保護などの支援制度がある事を知らない、支援や行政との関わりを望まない、何らかの理由で申請しないなど、困窮層の本当に支援を必要としている子どもに支援が届いていないという実態があります。
切実に支援を必要とする状況にありながら貧困というカテゴリーに括られることを嫌い敬遠する子ども、また、困窮家庭で昼夜働き詰めの保護者は孤立し、困りごとの相談など心身ともに余裕がないということも推測できました。申請ありきの制度を根本的に変える発想など、課題も見えました。
このような課題に対し対策計画を策定し、県、自治体や学校など教育機関がそれぞれの立場から迅速かつ継続的に対処、2016年だけでも約120か所の自治体支援による「居場所」ができました。そして大きな力となるのが民間の支援です。保育支援センター、子育て関係のNPO、居場所など実際に関わっている方々からの報告や証言は現場の切実な想いや苦悩など伝わってきます。
地元メディアの報道も沖縄の現状を明らかにし、県民に伝える大きな機会となり、読者から多くの反響が寄せられ、全県的な支援の動きにつながっています。官民双方が協力して取り組み連携する事でより一層の効果を発揮するのだと思います。
また白書では当事者が自分の経験や思いを語っています。あまりにも過酷な現実に胸が苦しくなりました。
貧困対策と沖縄の歴史との関係
沖縄県が全国に先駆けて貧困対策に乗り出した背景には、沖縄の歴史があると思います。太平洋戦争で唯一地上戦を経験し県民の4人に1人が亡くなった沖縄、多くの子どもが犠牲になりました。その悲惨な経験から、「命こそ宝」という思想が受け継がれてきたようです。
戦後すぐからアメリカの統治下にあり、保育、教育、福祉など国に放置されてきたなか、県の教育委員会、PTA連絡会などが中心となり「沖縄子どもを守る会」を結成しました。戦中戦後の厳しい現実を生きぬいてきたからこそ、子どもに希望を見出したのかもしれません。
今年沖縄は復帰50年を迎えました。現実はまだまだ困難な状況ですが、沖縄が目指しつつある子どもの貧困対策は確かな方向性を模索したなかから生まれつつあります。市民、行政、民間がそれぞれ役割を果たし、協力していく「沖縄モデル」ともいうべき方向性です。
(P.138-P.139 記事全文)