強い女性を育ててきたノルウェーの社会運動と市民権(鐙<あぶみ> 麻樹:ジャーナリスト・写真家)
7月、北欧の夏休みに私は「北欧のジェンダー平等」について猛勉強をしていた。1か月間、オスロ大学サマースクールで大学院レベルの科目を英語で履修。北欧のフェミニズムや女性議員が増えることの大切さ、マスキュリニティ、家族政策についてなど、内容は濃厚だった。論文の中で、「そうだったのか」と感動が続いたトピックがあった。なぜ、社会で影響力を発揮する女性が北欧諸国で続々と誕生したのか、女性の市民権と社会運動の関係だ。社会運動に参加することで、女性たちは政治に参加し、さまざまな形の市民権を獲得し、交渉・議論する力や人脈を身につけ、社会に与える影響力を獲得。結果、政府にとって政策を作る過程で必要なパートナーになっていったのだという。今回はこのことについて触れていきたい。
北欧のジェンダー平等はノルウェー出身で、労働党出身のヘルガ・ハーネスという女性政治家が1987年に発表したコンセプト「国家フェミニズム」「女性フレンドリーな福祉国家」から大きな影響を受けている。
ハーネスによると、国家フェミニズムとは女性運動と国家による強い同盟だ。社会民主主義をルーツとして、より多くの女性を巻き込むことによって社会変革を起こす。より女性フレンドリーな福祉国家では、女性は育児と仕事において、より中立的なバランスをとれるという。国家フェミニズムの理想は、女性は男性よりもより過酷な選択をすることを強要されず、女性は男性よりも犠牲を払わなくてよい社会だ。北欧諸国には国家フェミニズムと女性フレンドリーな福祉制度としての可能性が秘められていると説いたハーネスの考えは、今も北欧のジェンダー文献などでは頻繁に引用されている。
だが批判されていることも忘れてはならず、当時提唱されたこの理想には移民や多文化共生の課題が除外されてもいる。北欧諸国に住む移民や先住民族、マイノリティ背景がある市民は、北欧で違和感を感じることがあるはずだが、北欧モデルはいわゆる白人マジョリティの特権階級の人々に有利なように構築されているからだ。女性といっても色々な女性や個人の考え方があり、女性を一括りにすることもできない。だから「女性フレンドリー」は一部の特権階級の女性にとってフレンドリーという意味で、「女性フレンドリーな福祉国家」が「誰にでもフレンドリー」とは限らない。
(P.142-P.144 記事抜粋)