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ふたつの選挙の敗北がもたらした社会的経済の危機とこれから(韓国・城南市 元・社会的経済政策官/市民セクター政策機構客員研究員 崔 珉竟<チェ・ミンギョン>)

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3月大統領選挙、6月地方選挙で保守「国民の力」が勝利

 

 2022年3月の大統領選挙では、「共に民主党」(以下、民主党)の文在寅政権に失望した国民が、保守政党「国民の力」の尹?悦を選択した。両党の候補はいずれも、国家の未来ビジョンを提示すべき大統領候補としての資質と資格を備えていたとは言い難かった。そのため、国民からは「非好感度を争う選挙」と受け止められた。


 続いて行われた6月1日の地方選挙でも、国民は、発足したばかりの尹?悦政府に対する「牽制」より「安定」を選んだ。国民の力は17ある広域自治体の首長選挙において、ソウル特別市をはじめとする12自治体で勝利し、民主党は5自治体の勝利に止まった。前回2018年に行われた広域自治体の首長選挙では、民主党が14、国民の力が3自治体で勝利したので、わずか4年で地方の政治権力が入れ替わってしまった。


 韓国の人口の4分の1が居住する京畿道の知事選では民主党候補が当選した。市民は地方権力を与党である国民の力にすべて集中させることを選択しなかったとも解釈できる。それでも、京畿道内に31ある基礎自治体の首長選挙では、国民の力が22、民主党が9自治体で勝利した。2018年には民主党が29自治体、自由韓国党(国民の力の前身)が2自治体で首長を当選させたが、それが完全に逆転した。


 私が住む京畿道城南市も市長選前は民主党の市長だった。しかし、民主党に不利な要因がいくつも重なり、結果は国民の力の候補者が25万0022票、民主党の候補者が19万1613票で、6万票近くの大差で市長が交代することとなった。

 

「社会的経済秘書官制度」を廃止し、社会的経済を競争にさらす尹錫悦政権

 

 大統領選挙で勝利した尹錫悦政権には、社会的経済についての公約が皆無だった。社会サービスは関連する分野を多角化・大規模化することを通じて向上すると主張し、社会的経済組織だけでなく、企業や宗教団体による社会貢献の役割を強調した。つまりこの分野でさえ、市場競争に置くというわけである。


 さらに、文在寅政権時代に新設され、社会的経済の変化に多くの影響を与えた社会的経済秘書官制度を尹?悦政府は廃止した。これがきっかけとなって中央の政府機関のみならず、広域自治体、基礎自治体も、徐々に社会的経済を担当する組織の統廃合に乗り出している。


 具体的には、第一に、政府の企画財政部(部は日本の「省」にあたる)が、今年下半期に社会的経済課と協同組合課を統廃合して、持続可能経済課とすることを準備している。


 第二に、広域自治体を中心に、社会的経済を担当する部署の名称変更や廃止が始まった。首長と議員の大多数が与党・国民の力である自治体ほど即決している。例えば、ソウル市は7月、社会的経済担当官を廃止し、公正経済担当官が社会的企業や協同組合関連業務を担当するという組織再編案を市議会に提出して、1週間で可決した。また大邱市では、社会的経済課を廃止して、経済局傘下の創業振興課が担当することになった。さらに釜山市では社会的経済官が所属する民生労働政策官そのものを廃止し、関連業務をデジタル経済革新室に移管した。


 中央政府と広域自治体のこうした動きは、社会的経済企業に関する政策が、これまでの「育成」から自立強化に転換されたことを意味する。営利企業と社会的経済企業が公正に競争できる環境をつくるという政府のシグナルである。


 部署の統廃合や社会的経済という名称を使わなくなることは、時代や世界的な潮流に逆行するものだ。特に行政部門は、その名称に基づく事業計画の立案と実行に強く影響される集団だ。名称が変われば社会的経済に関連した政策と予算は、重要度が低下して優先順位が低下する可能性が高い。


 政府の企画財政部は、持続可能経済課の中に社会的経済と協同組合業務を配置することを決めたと先に述べたが、こうなると、持続可能な発展という大きな社会的課題でさえも、社会的経済組織に担わせておけば良いというように見えてしまう危険性がある。

(P.150-P.153 記事抜粋)

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