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韓国の社会的経済基本法制定はゾンビ企業の量産と国家経済を蝕む怪物なのか?(韓国・城南市 元・社会的経済政策官/市民セクター政策機構客員研究員 崔 珉竟<チェ・ミンギョン>)

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 国会では、社会的経済基本法の制定に関して与野党の論争が再び熱くなっている。社会的経済基本法案とは、一言で言えば、公共調達額の最大10%を社会的企業(注1)やマウル企業(注2)から購入するよう公共機関に義務づけるもので、野党・共に民主党は法案制定を積極的に推し進めている。2014年に初めて発議されて以来この法案は毎回否決されてきたが、来年(2024年)の総選挙を控えて再び立法化を急ぐことになった。
 他方、文在寅前政府時代以来、社会的経済に対して批判してきた保守言論とそれに同調する保守的な市民団体は、社会的経済基本法は自由市場経済の根幹を害し、ゾンビ企業を量産する国家社会主義の登場であるとし、制定に反対している。
 今号では、社会的経済基本法に対する両者の主張と争点を見ていく。

 

社会的経済の現状

 

 2017年に文在寅が大統領に就任してから、社会的経済活性化施策(2017年10月)、社会的金融・人材養成(2018年)、地域共同体力量向上(2019年)、ソーシャルベンチャー企業・自活企業・社会的企業支援政策(2018年)、協同組合設立支援政策(2020年)を導入し、2020年8月には社会的経済企業働き口創出支援施策を発表するなど、支援政策を持続的に推進してきた。
 韓国社会的企業振興院(雇用労働部所属)によると、2023年7月末の社会的企業は3597社、協同組合は2万4981社で、2016年に比べてそれぞれ3倍程度増加した。

 

社会的経済基本法を支持する主張

 

 以下に、社会的基本法が必要とする主な主張をまとめる。
 ①現在も国会係留中の社会的経済基本法案は、社会的経済の定義と範囲、政策の策定手続きおよび実行方法など、必ず立法により決めるべき重要事項を比較的詳細に含んでいる。
その理由は、社会的経済の根幹に関して確固たる合意ができて初めて、国家や地方自治体が社会的経済政策を一貫して推進することが可能になるからだ。支援対象を選定するための基準を具体化し、支援の水準と方法を決定することも、やはりそのような土台の上で体系的に行うことができる。
 ②2007年には社会的企業育成法、2012年には協同組合基本法が制定された。2021年には、ベンチャー企業育成に関する特別措置法に、ソーシャルベンチャー企業に関する規定が新設された。いずれも歴史的な立法だった。しかし、これらは社会的経済の概念・目的と細かな調整なしに設計されたため、限界がある。
 端的な例を挙げよう。公益的目的が非常に明確であり、すでに協同組合基本法により経営公示義務など多様な法律上の義務を負っている「社会的協同組合」が、社会的企業育成法上の諸政策の支援対象となるためには、別途「認証」手続きを経なければならない。そしてソーシャルベンチャー企業として政府の支援を受けるためには、別途「判別」手続きを経なければならない。
 しかも認証や判別を受けたら、各法律に基づいてそれぞれの義務を遵守しなければならない。各法律を所管する部処も雇用労働部(社会的企業育成法)、企画財政部(協同組合基本法)、中小ベンチャー企業部(ベンチャー企業育成に関する特別措置法)など異なり、それらの管理・監督基準や水準も異なる。
 ③社会的経済組織(社会的企業、協同組合、マウル企業、ソーシャルベンチャー)を包括する法律なしには、支援や規制の水準を立法者が総合的に議論することは事実上不可能に近い。この仕切りをそのままにしておけば、ある分野では行政の空白が生じ、ある分野では行政の重複が生じるだろう。この点で、これまで提出された社会的経済基本法案の多数が、企画財政部や雇用労働部など複数の中央行政機関が合同で「韓国社会的経済院」を設立すると規定したことも、大きな意味がある。

 上記の立場と主張からは、韓国社会で社会的経済基本法を制定する意味とその役割がわかるだろう。

(P.120-P.123 記事抜粋)

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