生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

論文(崔 珉竟(チェ・ミンギョン))

【2022年7月】韓国の社会的経済と政治1.「33年間の生協運動との出会いがスタートに」

崔珉竟さんは過去30年以上にわたり、韓国・京畿道における社会的経済の分野で活動されてきました。

現在は「城南市社会的経済政策官」として、「城南市の市民が幸せで主人公としての自尊心を持つことができ
る」という城南市のミッションを実現するために活躍しています。
また崔さんは長年、生活クラブグループと交流を重ねてきたこともあり、この度、当機構の客員研究員に
なっていただきました。コロナ禍と貧富の差の拡大、共同体の喪失、失業と社会的疎外などは日韓共通の問
題ですが、韓国の人びとは「社会的経済」を広げることで、それを乗り越えようとしており、日本の市民社
会にとっても大きな刺激となるはずです。
『社会運動』では崔さんにお願いして、韓国の協同組合や社会的経済を伝える連載を開始することにしまし
た。第1回目は崔さんの経歴について自己紹介していただきます。

 

1.住民消費者生活協同組合

| 1990〜2013年 |


1989年のこと、それは私が通う住民教会の李イ・ヘハク海學牧師が「住民信用協同組合」を設立して
10年目にあたり、牧師は教会の女性信者を主体とする生活協同組合を設立しようと考えました。その目的は、ウルグアイラウンド(貿易自由化を促進するために行われた多国間の通商交渉)で打撃を受ける農村経済の回復と、食べ物の安全性を確保することでした。そして李海學牧師の提案を受けて私は設立準備運営委員会(7人)を組織し、組合員の加入促進と教育活動、生産地開発と供給事業など、教会の後輩である女性とともに生協活動を始めました。
1990年3月には、住民消費者生活協同組合として本格的に事業を開始しました。しかし活動する中で、信協京畿連合会から日本の生活クラブ生協が研修生募集しているとの情報を得、生協運動が地域社会に定着するためにはより専門的な知識と経験が必要と判断し、生活クラブ生協東京に1990年末から1年間の研修に参加しました。
帰国後、私は住民生協の専従職員として地域の市民に生協への加入を勧めました。組合員が運営する共同班、地区や各種委員会、月別予約共同購入、信頼される生産地の開発、毎月の増資活動など、これらは当時、韓国で活動していた生協としては初めての組織運営方式だったので、多くの生協が住民生協へ見学や研修に来ました。
私が2013年に常務理事(日本の専務理事に相当)を退任するまで、1996年度には生活クラブ東京との姉妹提携を締結、1997年度には仁川と京畿地域の生協によって「首都圏事業連合会(現トゥレ生協連合会)」を設立するなど、様々なことがありました。

1990年に37世帯でスタートした住民生協は、今や1万6000世帯、8つの直営店舗、年間売上高70億ウォン(約7億円)の規模に成長しました。さらに住民生協は様々な委員会活動を通じて地域の環境運動、生活政治、代案教育など多様な運動の基盤を作り、市民活動家を輩出する役割を果たしています。


2.「城南市 サルリムの経済 ハンマダン」執行委員長、社会的経済ネットワーク準備委員長

| 2011年5月~2013年10年 |

 

2011年に私は「城南市サルリムの経済 ハンマダン」(注2)の執行委員長を務め、韓国社会で
社会的経済の「多様性、ガバナンス、ネットワーク」を公論化(注3)する重要な契機を作りました。
そして、2013年には官民の協力により「城南市社会的経済活性化のための9つの政策議題」を発表し、課題を解決するための重要な指標を作り出しました。この3年間は、城南市において社会的経済が定着していく重要な時期であり、民間と行政のガバナンス、社会的経済組織間の相互連帯をつくる役割を果たしてきました。


3.「京畿道協同組合協議会」及び「社会的経済連帯会議」運営委員長

|2013年3月〜2015年5月 |


韓国で2012年に協同組合基本法が制定された後、京畿道内の協同組合の連帯による事業力の
強化、制度の改善、広報のために「京畿道協同組合協議会」が設立され、私は運営委員長となって
京畿道内に11の協同組合協議会を設立しました。また、京畿道内の社会的経済(社会的企業、マウル企
業、協同組合、自活企業)の連帯組織である「京畿道社会的経済連帯会議」の運営委員長として、部門間の協業と地域ネットワークの構築、さらに「京畿道社会的経済育成支援条例」の制定過程にかかわりました。
2015年に京畿道協同組合協議会の運営委員長を退任した私は、「全国協同組合協議会」の設立かかわりました。全国協同組合協議会の設立準備は既に2013年からソウル、仁イン川チョン、京畿地域で始まっており、その後、全国からの参加をえて、2019年に創立総会を行いました。全国協同組合協議会では、協同組合基本法の改正(特に異種協同組合連合会設立、協同組合間出資可能)と協同組合の広報、代表性などを確保することを中心に進めてきました。

4.「京畿道タボク共同体支援センター」

| 2015年6月〜2019年6月 |


マウル共同体と社会的経済を活性化するための事業と予算措置は基礎自治体では先行して行われていたものの、京畿道では不十分でした。そのため2015年には京畿道が「京畿道タボク共同体TF」を組織し、私は社会的経済部門の代表として参加しました。これによって設立された「タボク共同体支援センター」で私は4年の間に、31の市郡で、社会的経済に関する広報、組織(社会的企業、マウル企業、協同組合)の設立と、業種別(介護、文化芸術、カフェ、社会的金融、教育)活性化支援とコンサルティングを担当しました。市郡の住民が主体として力量を発揮できるよう支援してきた結果、社会的経済企業の販路が広がるとともに、制度を構築するきっかけにもなりました。


5.「城南市社会的経済支援センター」長

| 2019年11月〜2021年11月 |


2019年には城南市社会的経済支援センター長に就任しました。今後も城南市において社会的経済が持続可能な構造を創るため、様々な課題の実現に取り組みました。具体的には、介護分野における社会的協同組合の設立と運営支援、5つの公営機関とともに「公共調達関連実務協議体」を組織して、公共機関の責任として社会的経済企業からモノやサービスを調達する事業の拡大を進めました。また、公・私企業が持つ資源を活用して、社会的経済の雇用創出や創業ための環境整備を行いました。社会的経済企業の業種別の活性化策を提示、実際に販路が広がりました。
城南市では「社会的経済活性化条例」が改正されたことを受けて、社会的経済企業の販路拡大と現場の要求に応えるために社会的経済基金(24億ウォン)をつくり、また社会的経済企業の自助金造成をすすめました。
さらに2021年度には、城南市における社会的経済の中長期ビジョンと9大戦略課題を定めた「第2次城南市社会的経済5カ年計画」を策定しました。


6.城南市社会的経済政策官

| 2021年11月〜現在 |

 

2021年11月には、韓国の基礎自治体では初めて社会的経済を専門に担当する「社会的経済政策官」を引き受けることになりました。ウン・スミ市長の公約である「市民が幸せな城南」をつくるには、社会的経済関連事業が市政と協力して持続的に広がる必要があり、私の専門性が求められたからです。
私は「第2次城南市社会的経済活性化基本計画」を実施するにあたり、「住みやすい地域社会づく
り」というミッションを設定し、そのための戦略を次のように定めました。

1.自主的な職場づくり、2.市民事業と生活を支援するための資金づくりと運用、3.ネットワークを通じた社会的経済組織間の連帯と地域活性化、4.地域社会の問題を解決するための政策の調査と研究機能、5.未
来社会のための事業と活動。現在は、市議会や担当部署と協議して、制度の改善につなげています。

人口93万人の城南市において、社会的経済企業(協同組合、社会的企業、マウル企業、自活企業、共有経済(シェアリングエコノミー)企業で、有給労働者を雇用し、財貨やサービスの生産・販売など営業活動をする企業。市民企業は、450社余りにのぼります。中でも城南型モデルである市民企業は生活廃棄物の運搬事業を担当しています。
また2017年以降に新設された国公立保育園は社会的協同組合が管理運営しています。このような公共のサービス部門において、社会的経済組織の設立や参加の推進、共有経済企業の選定によって社会的、経済的、環境的価値を創出する活動は、全国でも先進的なモデルと評価される事例になっています。

 

●2022年7月 季刊『社会運動』(447号)全文掲載。